「レジスタンスのアジト感」
手作りコーヒの店 nel
アイスコーヒー 350円


-- スポンサーリンク --

店内はほら穴のような構造。最奥の壁には心ばかりに開放感を演出する書き割りの窓。その窓辺の小さな席に、男ふたり、文字通り膝を突き合わせて掛けた。変色し剥げた壁の塗装、古びた調度品から相当の年季が見て取れる。それもそのはず、開業はなんばウォークと同じ1970年とのこと。

かつてヘビースモーカーと呼ばれた私からすると懐かしい、タバコの煙とにおいが充満した閉塞空間。愛煙家たちにとっては天国のような文字通りの穴場だが、嫌煙家がうっかり入った日には、まるで宇宙空間に放り出されたかのように喉を掻きむしりながら窒息死するだろう。髪や鼻喉の粘膜に付着したヤニ臭は翌日まで取れない。

やれ昭和レトロやヴィンテージやと懐古主義者には好意的にも捉えられようが、言葉を選ばずに言えば薄汚く不衛生である。かつてこういう店がそこかしこにあって、これぞ昭和の人々の憩いの場の在りようだったのだとすれば、そりゃ我々現代人の寿命も延びますわと納得できる。

ところで店名の「ネル」の由来がネルドリップのネルならば、それはコーヒーを濾過して淹れるための布製フィルター、フランネルの略称である。きっとこの店のコーヒーはネルドリップ方式で淹れたものに違いない。ドリップのこととかよく知らんけど。

-- スポンサーリンク --

コーヒーはホット、アイスともに350円。私が頼んだブラックのアイスコーヒーは、銅製の、ゴブレット型の粋なカップに注がれた。クリアな氷が浮かぶ艷やかな液面は、やはりネルドリップを思わせる。ストローを刺さずに口をつけて啜りたい。薄く打ち伸ばされた熱伝導性の高い金属がひやりと唇に触れる。

適度に苦みがあり、雑味がなく透き通るようなコーヒーの味わいは、周囲を充たすタバコのにおいと絶妙にマッチした。鼻に抜けるドリップの香ばしさは、コーヒーという飲み物が豆からいかに作られるものか、時間をさかのぼって私に説明するようだ。コーヒーソムリエじゃないからの味の違いなんて分からんけど。

バターかジャムを塗った厚切りのトーストが、1枚50円で付けられる。見上げたサービス精神である。狭小の店内で、硬い木の椅子に座り、小さなテーブルで、背中を丸めて50円のパンをかじる。それは令和の喫煙者たちの肩身の狭さを顕している。しかし、こういうアングラな喫茶店や飲み屋が存続することの価値はきっとある。長く続けてもらいたいと願う。

【お店】手作りコーヒの店 nel(ネル)
【アクセス】なんばウォーク
【メニュー】アイスコーヒー 350円
【雰囲気】煙たいほら穴
【私のおすすめ度】C

★私のおすすめ度格付(僭越ながら)
AAA 大満足!絶対おすすめ
AA 満足!超おすすめ
A おすすめ
B 可もなく不可もなく
C 人によってはおすすめしない
D おすすめしない

-- スポンサーリンク --